祖母と野良猫の不思議な話
15年前の話ですが、私の祖母は認知症でした。
祖父と祖母、二人で暮らしていたのですが、祖父が長期入院をすることになり、学生だった私が祖父母と暮らすことになりました。
その当時、祖母は野良猫に餌付けしており、何匹も猫たちが家を出入りしていました。
その中の2匹、茶色いたわしみたいなおばあちゃん猫のミイ子と白に斑柄の賢い娘のチコ、そしてその子供達の不思議な話をしたいと思います。
祖母の認知症状の一つに徘徊がありました。
家の近くでぼんやり立っていたり、散歩程度の道のりを行ったり来たりする程度でしたが、家の場所は分かっておらず、ほとんど迷子状態でした。
ですが祖母は、心強い散歩仲間のおかげでちゃんと家に戻ってこれました。
それがミイ子とチコです。
ミイ子とチコは祖母が家を出るとどこからとも無くやってきて、散歩という名の徘徊に付いて歩きました。
おかげ祖母は家に帰ってこれました。
祖父は緑内障で目が悪く、また年齢と共に耳も遠くなっていまい、祖母が家の外に出てしまうと追いかけられませんでした。
私もバイトや学校で留守にせざるおえないこともあり、辞めるか休学せざる負えないと悩んでいました。
不安だらけだった祖母の介護だったのですが、ミイ子とチコの存在は本当に有難かったです。
私は祖父母にお願いして、ミイ子とチコを家の中に入れさせてもらいました。
猫と暮らしたのはこのときが初めてだったのですが、猫がこんなに愛情深く心配性だと知りませんでした。
我が家に子猫が増えた
しばらくして、ミイ子とチコは子猫を一匹ずつ産みました。
どうやら家に来たときには妊娠していたようで、突然家の中に手の平の半分くらいの子猫が2匹生まれたのです。
ミイ子とチコは親子ですが毛の色が全然違いました。
ですが生まれた子猫は2匹とも黒い縞模様で毛が長く、瓜二つでした。
名前は親猫2匹から”こ”の字を貰って、ミイ子の子供で女の子の子猫をメイ子、チコの子供で男の子の子猫をノコと名付けました。
親になって忙しいだろうに、ミイ子とチコは交代で祖母の散歩に付き合ってくれました。
その間どちらかが子猫にお乳をあげているところを見たときは、すごいなあと感心してしまいました。
助け合って子育てをしているところを見ると、私も祖母を助けられるように頑張らないと、と思いました。
介護は大変でしたが、猫達に癒され励まされながら、なんとか乗り切っていました。
せいぜい私が猫達にしてあげられた事は、子猫たちが病気にならないように病院に連れて行ったり、できるだけ家の中に留めておくようにしてあげることぐらいでした。
そしていなくなる母猫
子猫が生後半年になった頃、事件が起きました。
ミイ子が突然、姿を消しました。
家の中や祖母の散歩道など思い当たるところを探したのですが、見つかりません。
ご近所の方も最近ミイ子を見かけないけど大丈夫かと心配してくれたのですが、結局見つけることができませんでした。
言葉にはしませんでいたが、祖母もミイ子がいなくなったのに気が付いたようでした。
そして何故か、徘徊をあまりしなくなりました。
そのせいか足腰も格段に弱くなってしまい、一人で出歩くことも出来なくなりました。
ミイ子が居なくなった後、子猫たちはチコが頑張ってしっかり大人になるまで育ててくれました。
特にノコは甘えっ子で1歳近くなっても乳離れができず、よくチコに怒られていました。
逆にメイ子は早くに母がいなくなったせいか、自立したしっかり者のお姉さんになりました。
祖母の徘徊も収まり、猫達も家の中にいたので私もホッとしていました。
これからは親子3匹仲睦まじく、のんびり過ごしてほしいと思っていたのですが、それも長く続きませんでした。
またいなくなった母猫
今度はチコが忽然と姿を消したのです。
病気の素振りが無かったので、油断していた私がいけませんでした。
チコはとても賢いので病気を隠していたのかもしれません。
手を尽くし探したのですが、チコも見つかることはありませんでした。
それからも祖母の介護は続きましたが、父と母の定年退職を期に私は就職をし、祖父母の家を出ました。
その後、祖母も寝たきりになり、散歩は父が車椅子でたまに敷地内に出してくれています。
ただ、まだ不思議なことは続きました。
なんとその散歩に、メイ子とノコが着いて来るそうです。
祖母の車椅子の後を着いて来て、一緒に日向ぼっこをし、一緒に家の中に戻っていくのです。
母猫のマネなのか、それとも遺伝的なものなのか、どちらにせよ本当に愛情深い猫の家族に、私達は救われました。
いなくなった母猫の行方
ミイ子とチコはは死期を悟って、ひっそりと天国へと行ってしまったのだと私は思っています。
こんなにも祖母のために大切な時間を使ってくれ、また可愛い子猫たちを生み育ててくれて、2匹には感謝しかありません。
なのになんの恩返しも出来なかったことを、悔やんでいます。
本当はもっと猫らしく、自由で快適な暮らしを親子でさせてあげたかったです。
猫には八つの魂があると聞いたことがあるので、もしまた猫生を歩んでるのだったらどこかで幸せに暮らしていてほしいと、心から願っています。