いつも一緒にいてくれた愛犬
私が小学校4年生のときの話です。
共働きの両親・大学生の長男・高校生の次男、そして私の5人家族の家にやってた豆柴のメス「ルナ」。
学校から帰ると誰もいない家で、私を迎えてくれるのはいつもルナでした。
嬉しかったことも悲しいことも、学校であったことも、まず話をするのはルナ。
末っ子の私の一番の友達だったのだと思います。
悲しくて、辛い時も何も言わずいてくれた愛犬
ある日、私が泣いて帰宅したときのことです。
背が低いために学校中から虐められていた私は、悔しい気持ちがあふれて止まらなくなってしまいました。
誰かに打ち明けることも出来ず、相談して事態が悪化するのも怖くて、「ただただ悔しい」という気持ちのやり場がわからなかったのです。
母がいたらきっと私の泣き顔をみて、あれやこれやと質問してきたのではないかと思います。
学校に抗議をしに行ってしまったかもしれません。
それも頭をよぎり、母に相談できなかったのも事実です。
私は帰宅して、珍しく仕事が休みで家にいた母には顔を合わさずに、ランドセルを部屋に置いて庭に行きました。
ルナは土の穴掘りに夢中でした。
犬小屋のそばにあるコンクリートブロックに座ってボーッとしていると、穴を掘っていたルナが私に気がつきました。
しばらくその場から私の様子をみていていましたが、穴を掘る作業の手(足?)を止めて私の隣へ来ると、ちょこんとお座りをしました。
何をするでもなく、ずっとその姿勢でいるのです。
なでなでしてほしいとか、遊んでほしいとか、いつもならアピールしてくるのですがその日はただじっと私のそばに並んで座り続けるルナ。
1時間すぎてもアクビひとつするこることなく、そばにいるだけなのです。
私の涙がおさまった頃、ルナは私の正面に回り込んでお座りしなおしました。
じっと見つめられて、自分のことしか考えられなかった私も、ルナが慰めてくれていることに気が付きました。
頭をなでてあげると、乾いた涙の跡をペロリと舐めてくれたのです。
今思うと、あのとき私が一番してほしかったことを、犬のルナがしてくれたのです。
一言も話さない私が「悲しい」という感情を抱いていたことを、犬のルナは感じ取っていたのだと思います。
病気を教えてくれたおかげで今ここにいる
それから15年。
私は25才、ルナは18才になった年の夏のことです。
発熱が続いて仕事を休みがちになった私は、体調を整えるために実家に戻り、一週間ほどルナと生活することになりました。
「大したことはない、風邪が悪化したんだろう」
と思っていましたが、薬を飲んで寝ていてもなかなか治りません。
そのため、検査入院をすることになったんです。
入院をする前の日に、家で寝ていると、ルナがしきりに私の耳の下をペロペロ舐めていたのです。
「なぜそこを?」
と思いましたが、そのときは特別気にすることはありませんでした。
ルナも年をとって、とりあえず舐めただけかな?
くらいに考えていたのです。
血液検査・MRI・胃カメラ・・・と、様々な全身の検査を行いました。
それでも、なかなか発熱の原因がわからず、一時退院の話も出始めたときのことです。
母が、腹部エコーの検査中に「すみませんが耳の下を診てもらえませんか?」と医師に頼みました。
検査項目にないため「後ほど主治医と相談を」と言われたのですが、必死に頼む母に押し切られ、ちょっとだけですよと診てくれた医師。
すると、うっすら白い影が映ったのです。
その結果は主治医に伝えられ、細かい検査を行うことになったんです。
驚くことに腫瘍がみつかり、「悪性リンパ腫」つまりガンだとわかったのです。
1ヶ月かけて、全身の検査を行っても原因がわからなかったのに・・・。
なぜ耳の下が気になったのか母に尋ねてみると、ルナが耳の下をしきりに舐めていたことを、ふと思い出したのだそうです。
藁をもすがる思いで、頼んでみてよかったと後に母は語りました。
病状は悪く、進行度はステージ3との診断がつきました。
半年にわたる抗がん剤治療が始まり、私はしばらくルナと会うことがなくなりました。
最後の時は一緒にいたかったな・・・
私は退院したら、まずルナを抱きしめようと思っていました。
どんなときも私の気持ちに寄り添ってくれたルナに、お礼を伝えたかったのです。
しかし、ルナは家に居ませんでした。
両親にどうしてルナがいないのか聞くと、私が入院して3ヶ月が経った頃に、突然姿を消したのだと教えてくれました。
父も母も、保健所に連絡したり、迷い犬のチラシを配って、遠くまで探しにいったりしたそうです。
似たような犬を見かけたという連絡はあったものの、見つけることはできなかったと言うのです。
豆柴にしては長生きしている方でしたが、3ヶ月も家から離れては…と絶望的になりました。
かかりつけの獣医に話をしに行くと、寿命を悟って出て行ったのかもしれませんね、とのことでした。
犬の本能でしょうか。
死に姿を見せないようにということでしょうか。
飼い主としては、腕の中で眠るように送ってあげたかったですが、それがルナの意思ならばと思うことにしました。
私の幼少時代からそばにいてくれたルナは、友達で姉妹で、大切な大切な存在でした。
せめて、暖かい場所で最期のときを過ごせていたらいいな、と思います。
命の恩人、心の友だちのルナに、ありがとうの気持ちでいっぱいです。