いらないと言われた子猫を引き取ってみた
ある日のことです。
仕事から帰ってきた矢先、両親から連絡がきました。
近所で行方不明になっていた猫が、見つかったという連絡です。
ただ、フェンスの向こうにいて捕まえられないから、ちょっと来て、と言われました。
仕事帰りでまだスーツのままの状況の私。
それでも、行ってみるとボロ雑巾のような猫がいました。
名前は・・・わかりません。
分かるのは、近所の方が探していた、ということだけです。
そのままにしておくわけにもいかず、とりあえず呼んでみることに・・・。
「おいで」そう呼んでみると、ちゃんと来ました。
おやつも持っていないのに、なんて賢い子だろう、と思いました。
私は、そのボロ雑巾のような猫を抱えて、スーツをダメにしながら飼い主の元へ行きました。
あんなに探していたので、心配していただろうな、と思っていたら、予想を裏切る言葉が・・・。
「1か月もノラをしていたなら、もう野良猫です」
バタンと閉められた扉の前には、立ち尽くす私たちとボロ雑巾のような猫。
どうしよう・・・。
いや、うちはダメです。
あと半年は賃貸・・・。
いや、あと半年だけなら・・・。
実は新居建設中なのでした。
戸建になったら、動物は飼うつもりだった。
あと半年遅かったら・・・では、この子はどうするの・・・。
心を決めたときには、もう電話をかけていました。
「不動産屋さん、絶対に現状回復してお返しします。だから、半年だけ目をつぶってもらえませんか。ご迷惑はおかけしませんから」
近所の方から苦情が出れば、即時退去という条件付き(黙認?)で、晴れて了承を得ることができました。
衰弱していた猫が・・・
飼い始めた猫は、「腹ペコのペコ」。
立ち上がったまま、ごはんが食べられないほど衰弱していました。
どれだけ食べても、満腹にならないようでした。
しかし、それも次第に落ち着きはじめました。
ボロ雑巾のようだった毛は、シャンプーによって、本来の長毛のモフモフ猫を取り戻しました。
ペコは、私たちによく懐き、それは幸せな日々を送っていました。
そして半年後、無事、新居に引っ越すことができました。
そしてまた拾ってきた子猫
そんなある日、駅前に突然現れた生後1ヶ月半の子猫。
駅前には、猫の存在を疎ましく思う飲食店オーナー。
そして、猫の餌付けをしたがるOLの攻防が続いていました。
しかし、駅前で猫が大きくなっても、幸せにはなれないでしょう。
車か電車にひかれるか・・・。
飲食店オーナーに追い回されるか・・・。
どちらの猫生も、幸せとは言えません。
私は、この猫を連れて帰ることにしました。
捕獲したその足で動物病院に向かい、獣医さんから、
「2カ月は先住猫と隔離するように」と言われました。
言われた通りに、個室を与えました。
ミルクを与え、一緒に遊び、それは大切に育てていました。
先住猫との悲しい分かれ
あと少しすれば、検査の日を迎えることができます。
「晴れて先住猫と顔合わせだな」
そうすれば広いリビングで一緒に遊べる、と思っていた頃です。
私は先住猫ペコの様子が、おかしいことに気づきます。
なんだか、元気がない。
でも、だからと言ってそれ以外に変な様子もないのです。
ごはんもいつも通り食べ、おしっこもウンチも問題なし。
ならば、何が変なのかというと、なんだかテンションが低いのです。
それ以上に、説明の方法がありません。
獣医さんにそのまま伝えると、苦笑いをしながら血液検査しましょう・・・と。
「あ、ペコちゃんはウィルスチェックもまだでしたから、ついでにしときますね」
と提案してくれました。
検査結果が出たと呼ばれていくと、いつもとは明らかに違う先生の表情。
何かがあった・・・私は瞬間的に感じました。
先住猫の白血病キャリア発覚・・・。
まさかの出来事でした。
子猫は白血病・エイズともにノンキャリア。
悩みましたが、永くないペコのことを考え、子猫はそのままケージ暮らしをしてもらうことにしました。
ペコはといえば、そのまま、白血病を発症し、3年弱という短い生涯を終えました。
とても尊く、猫の魅力を私たちに教えてくれた猫でした。
もう1匹の猫も白血病に感染していた!?
猫白血病というのは、唾液感染します。
隔離していたままの新猫も、改めてウィルスチェックをしました。
隔離していたとはいえ、ドキドキの瞬間です。
結果は、白血病陰性、猫エイズ陽性。
思わず病院で「はっ!?」と言ってしまいました。
私は、唾液感染を恐れ、毎食後ペコの食器を消毒し、手を洗い、服を着替えていました。
それ以外の猫との接触はありません。
それが、あの時陰性だった子猫が猫エイズ陽性?
私にはまったくわかりません。
獣医さんも首をかしげていましたが、母親の抗体がある生後3カ月までは、それぞれに偽陽性や偽陰性が現れる事があるとのこと・・・。
誰を責めることもできません。
とにかく、生き残った命です。
私は子猫を育てることに集中しました。
ペコが触ったところを消毒することは精神的にとてもつらく、ペコの痕跡を自ら消し去っているような気分でした。
それでも、私はこの子を守る。
猫エイズ陽性の子猫に、白血病ウィルスを感染させてはいけません。
泣きながらトイレや食器を消毒し、砂を取り換え、リビング中を消毒しました。
そんな夢中で育てた子猫も、今では3歳になりました。
ペコの猫生を越えました。
今では立派な我が家のお姫様です。
とんでも確率でやって来た愛猫たち
そして、私はというと、この2頭が我が家に来た意味を考えていました。
日本の野良猫の白血病羅漢率が約3%。
エイズ羅漢率は約12%程度だそうです。
つまり、たまたま拾った猫2頭が、たまたま白血病と猫エイズに感染していた確率は、0.006%。
私は選ばれた人間なのでは・・・と思い始めたのです。
そして、猫の適正飼育に関する普及活動を始めようと、現在資格の勉強中です。
家庭で飼われる猫が、感染症のリスクに晒されないためには、完全室内飼いが基本です。
外には、人間が知りえないウィルスが存在します。
人間が自然界すべてのウィルスをコントロールできるなど、妄想なのです。
だからこそ、せめて室内の安全な場所で飼育すること。
そして、猫の日々の変化に気づける環境で生活することが大切なのです。