【黒いプードル】ゲージの中で暮らす小さな繁殖犬
姉も私もまだ実家暮らしだった頃、我が家には黒いプードルがいました。
それが、ナタリーです。
姉がトリマーとして働いていた、ドッグサロン&ブリーダーさんのところで、ショードッグとしていくつもの賞を取り、その後に繁殖犬として活躍した子でした。
何匹もの子どもをショーに送り出した後、引退して狭いケージで暮らすナタリーを、我が家に引き取ってきたのでした。
ブリーダーさんのところにいる時は、ずっと狭いケージが彼女の世界だったのだと思います。
散歩に行く時だけ、ケージから出ることができました。
黒いプードルは忠誠心の塊でストーカー気質の犬
ナタリーは、ケージの柵ごしから、働く姉をずっと眺めていたそうです。
そして、姉が優しい声をかけ続けていたのもあると思います。
我が家に迎えられたナタリーは、姉への忠誠心と愛だけで生きているような子でした。
私達にも触らせてくれましたが、呼んでも来るのは嫌々しょうがなくという感情を全面に押し出しながらで、姉のそばにいる時は、呼んでも絶対に来てはくれませんでした。
どこへ行くのも、姉とナタリーは一緒でした。
寝るのも一緒です。
「まるで小さなストーカーみたい」と、姉はよくそう言って笑っていました。
ナタリーは、姉のそばを一時も離れようとしないのです。
とにかく大人しく、滅多に吠えることのない穏やかな子で、知らない人に声をかけられると、かたかたと小さく震えて、よく姉にしがみついていました。
まるでお母さんと甘えん坊の子どもみたい、姉とナタリーのことを、よくそんなふうに例えて家族で笑っていました。
ストーカー犬が唯一威嚇する瞬間
そんな大人しいナタリーが唯一怒る瞬間は、毎朝私が姉を起こす時でした。
朝が弱い姉は、毎朝起きるまでかなり時間がかかるのです。
私が姉を起こすと、一緒に寝ているぬくぬくのお布団から飛び出してきては、姉の顔にがばっと覆いかぶさり、歯をむき出して私を威嚇してくるのです。
『アタシのかーさんに何かしたらただじゃおかないからね!』
ナタリーが全身で伝える警告でした。
姉が出かける時に、どうしてもナタリーを連れて行けない時は、実母が預かったりもありましたが、抱っこされていた母の腕をするんと逃げ出して、走り出す姉のクルマを追いかけたこともありました。
母が『いきなり走り出すから、私も走って追いかけたのよー』って後から苦笑いで教えてくれました。
母はナタリーが事故に合わなくてよかったと、すごくほっとしたそうです。
【黒いプードル】ペット保険がない時の治療費は高額という現実
そんなナタリーは、晩年に重い心臓病を患ってしまいました。
人間と違って、健康保険制度のない診療費や毎月の薬代はかなり高額でした。
まだ今と違って、ペット用の保険があまり有名ではなかった頃で、すべて自費で支払いをしていました。
その内に、ナタリーは心臓発作や呼吸困難を起こすようになり、自宅でも24時間体制で高酸素供給ケージに入れられることになりました。
こちらもお高いレンタル品です。
それでもナタリーが少しでも楽になるならばと、レンタルを続けました。
ナタリーは苦しいのか、それとも姉と離れる寂しさか、夜に鳴きどおしになってしまったので、姉は毎晩高酸素ケージの横で毛布をかぶり、添い寝をしていました。
少しでもナタリーが姉を感じられるように、ケージにぴったりくっついて、小さい穴から指を入れてナタリーを触れながら寝ていました。
【犬】ペットは人間よりも長生きが出来ない
だけどある日、ナタリーは姉を置いて逝ってしまいました。
家族でたくさん泣いて泣いて、ナタリーを見送りましたが、小さな骨壺に、姉がぽつりと言葉をかけたんです。
『虹の橋の、たもとで待ってて』
その言葉に、姉のナタリーに対する気持ちが全部詰まってたと思います。
家族で、ナタリーを想って何日も泣き続けました。
それから何年もたちますが、町でナタリーと同じような、真っ黒でふわふわのプードルちゃんを見かけるたびに「もう痛くないよ、もう苦しくないよ」って、空の上で思いっきり走り回ってるであろうナタリーのことを思い浮かべます。
きっと空の上からでも、姉のことをずっと見ていると思うのです。
大好きな姉と、また一緒にぬくぬくと眠れる日を、心待ちにしていると思うのです。